歯科技工士法と海外技工物
常務理事 徳田 和弘
【はじめに】
国民に安全な歯科技工物を提供することは、歯科医療機関として当然の責務である。しかし、海外で作成された技工物については、国内法は及ばない。この問題に行政はどのように対応してきたか。また、歯科医師がなすべきことや、今後の課題について述べたい。
【歯科技工物に関連する法律】
わが国において、歯科材料や歯科技工物は、その汎用性の有無により規制の対象となる法律が異なる。すなわち、汎用性を有するもの(歯科材料)は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(旧薬事法)が、汎用性のないものは、「歯科技工士法」が対象となる1)。従って、歯科医院で個々の患者に提供される技工物は、一般的に汎用性がないため、歯科技工士法が対象となる。
ちなみに、歯科技工士法第2条では、「歯科技工」を以下の様に定義している。この法律において、「歯科技工」とは、特定人に対する歯科医療の用に供する補てつ物、充てん物又は矯正装置を作成し、修理し、又は加工することをいう。ただし歯科医師(歯科医業を行うことができる医師を含む。以下同じ。)がその診療中の患者のために自ら行う行為を除く。
また、第17条では、歯科医師又は歯科技工士でなければ、業として歯科技工を行ってはならない。としている。
【海外技工物に対する国の対応】
歯科技工士法は、国内における歯科技工に関する法規であり、海外技工物はその規制の対象とならない。しかし、物流システムの発達等により、海外で作成された技工物が国内で提供されるようになると、国民の関心も高まり、患者に対して、安全で信頼できる技工物を提供できるよう、厚生労働省は以下の各種通知2)を発出してきた。
平成17年9月「国外で作成された補てつ物等の取り扱いについて」
平成22年3月「補てつ物等の作成を国外に委託する場合の使用材料の指示等について」
平成22年6月「歯科医療における補てつ物等のトレーサビリティに関する指針」
平成23年9月「歯科医療の用に供する補てつ物等の安全性の確保について」
これら通知の発出により、歯科医師は患者に対して、使用材料やその安全性、また補綴物に関する情報提供を十分行い、同意を得るよう努めなければならない。
委託先に対しては、作成場所(名称及び所在地)・使用材料を明示して指示し、要点等を診療録に記載することが求められている。また、委託先から納品の際には、「補てつ物管理表」及び使用された歯科材料に関する帳票等を取得し、指示内容に基づき作成されたかどうか確認を行い、トレーサビリティの確保に努めなければならないとされている。
【海外技工物に関する調査研究】
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厚生労働省は、平成20年度に「歯科補綴物の多国間流通に関する調査研究3)」を、さらに平成26年度には「歯科技工物の多国間流通の現状把握に関する調査研究4)」を実施し、海外技工物の発注状況について、6年間の変化を知る目的で調査を行った。
これら調査によると、発注先国として最も多いのが中国で84.6%、次いでアメリカ15.4%、韓国7.7%の順になっており、具体的な技工物の内容としては、ノンクラスプ義歯が61.5%で突出している。海外に発注する理由としては、国内で製作する技術・材料がない、が38.5%で一番多く、これはある程度納得のいく結果と言える。
一方、海外に歯科技工物を発注する割合は、6年間で7.4%から3.1%に減少している。これは、平成17年以降の度重なる通知や、海外発注の約6割を占めるノンクラスプ義歯が、平成22年4月に薬事認可されたこと、中国製技工物の一部に、有害物質が含まれているとするメディア報道等が影響していると考えられる。
また、発注する際の指示の有無については、「取引先の歯科技工所に任せてある」が76.9%であった。これは技工の「再委託」にあたり、国内では歯科技工士法第18条、歯科医師の指示書によらなければ業として歯科技工を行ってはならない。に違反する。海外技工物であっても、トレーサビリティ確保の観点からも、歯科医師は委託過程・作成過程の情報管理に努めなければならない。
【まとめ】
厚生労働省の調査結果から、海外技工物は減少傾向にあるものの、一定数存在していることが認められる。患者にとって、安心で安全な補綴物を提供するために、また患者との信頼関係を維持するためにも、歯科医療機関と技工所(委託先)は情報を共有し、トレーサビリティの確保のために、連携を築いておくことは必須である。これは海外技工物のみならず、国内においても同様である。
近年、普及が進むCAD/CAMに代表されるデジタル技術は、トレーサビリティの確保が容易にできることがメリットとされている5)。一方で、コンピュータ管理されるデータは、国内外を問わず容易にやり取りできるため、更なる普及に伴い、作成過程のボーダレス化が一層進むと考えられる。国内法が及ぶ範疇はどこまでか?等、今後加速するであろうデジタル化への対応が求められる。
【 参考文献 】
- 歯科技工に関する国の施策等について 日本補綴歯科学会8巻3号 2016年
- 厚生労働省HP 医政通知
- 歯科補綴物の多国間流通に関する調査研究 厚生労働省科学調査研究 2009年
- 歯科技工物の多国間流通の現状把握に関する調査研究 厚生労働省科学貯砂研究 2015年
- 歯科補綴に関する医療機器・歯科用材料・補綴装置の安全管理について
日本歯科補綴歯科学会 8巻3号 2016年