1.新薬開発と医療費抑制どう両立?中山製薬協会長に聞く
8月6日 日本経済新聞 電子版 |
1度の利用で数千万円する超高額薬が日本にも広がってきた。5月に薬価収載された白血病薬のキムリアの値段は、3349万円と破格だ。ただ保険が適用されるため、日本ではその多くを国と健康保険組合が負担することになる。新薬開発と医療費抑制をどう両立すべきか。日本製薬工業協会の中山譲治会長(第一三共会長)に聞いた。
ギムリアなど、薬価が非常に高い薬が相次いでいます。
「確かに価格の高さが目を引くところはある。技術の高度化と薬の標的の複雑化などで、創薬コストが高騰していることが背景だ。米タフツ大学の研究によると、創薬費用は10年前の2.5倍になった。対象患者が少ない場合は、1回あたりの価格を上げなければコストを回収できない」「日本の医薬品の価格は一時期、諸外国に比べて安かつた。新薬創出加算の導入などで主要国平均の75〜100%になってきたが、薬によっては先進国のなかで最も安い場合もある」
患者にとっては安い方がよいのでは。
「薬価が安ければ海外企業は革新的な新薬を日本で販売しなくなるだろう。経済合理性を追求すれば、日本の製薬企業も一番高く評価する国に行くことになりかねない。欧州では既にこうした問題が起きている」「薬価を全て安くするという方法を国民が選んでもいいだろう。ただそうなると、お金のある人だけが米国に行って治療を受けることになる」
医療費は財政の圧迫要因になっています。
「高額薬に限らず、薬を適正に使用することが重要だ。薬は万人に効くわけではない。効果がある患者を投与前に診断すれば、薬の無駄な投与を減らせる。そうした患者を特定できれば、医療費抑制につながる」「これまで医療費削減は薬価下げでまかなわれてきたが、製薬企業はそろそろ限界だ。このままでは企業は資金が足りず技術革新を起こせない」
無駄の削減には、医療制度そのものの改革も必要です。
「医療費の負担割合についても、見直しの議論が必要だ。軽い病気なら市販薬を使い自費で管理できるが、そういう病気も保険でカバーできる現行制度は見直しの余地がある」「病気を治療できなくなると不健康な人が増える。労働力や税収の減少を引き起こし、悪循環から抜け出せなくなる。製薬会社が革新的な薬をつくり、国民の生産性を高めて税収を増やし、さらなるイノベーションを創出する。こうした好循環への変換が急務だ」
厚生労働省の予測によるとキムリアを適応できる患者数は、販売8年目で216人で販売金額は72億円という。高額薬として話題だが、国民医療費全体の約42兆円(2016年度)に比べると0.02%にとどまる。
医療費抑制には薬効がある患者を見極める診断技術の開発と同時に、無駄な処方の削減が急務だ。残薬の管理で3千億円以上の薬剤費削減になるとの推計もある。処方薬と同じ成分を含む市販薬の販売も徐々に解禁されている。必要な患者に高度医療を届けつづけるには、医薬品の「コスト」に対する国民の意識を高める必要がある。
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2.第一三共ヘルスケアが歯磨き粉 口臭予防と美白を同時に
7月26日 日本経済新聞 電子版 |
第一三共ヘルスケアは着色汚れを落とす成分を新たに配合した歯磨き粉「ブレスラボ プラス美白」を8月29日に発売する。抗炎症や殺菌の効果をもつ従来品の薬用成分に加え、着色汚れを落として歯を本来の白さにする2つの成分を配合した。口臭予防と美白の両立を目指す。医薬部外品で、「リッチミント」と「リッチシトラス」の2種類を発売する。
口臭予防に特化して開発したブランド「ブレスラボ」から発売する。口臭の原因の約9割は口腔内にあるとされ、細菌が食べかすなどを分解して発生する「生理的口臭」と歯周病などによる「病的口臭」がある。ブレスラボは生理的口臭の原因となる細菌を殺すだけでなく、病的口臭の原因となる炎症も防ぐという。
同社が2017年に実施した調査では、成人の2人に1人が自分の口臭が気になり、そのうち7割は歯も白くしたいと回答した。全国の薬局やドラッグストア、スーパーマーケットなどで販売する。参考価格は税別980円。
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3.ライオン、写真を撮って歯ぐきチェック
7月24日 日本経済新聞 電子版 |
ライオンは口を開けて写真を撮るだけで歯ぐきの状態が分かる無料のウェブサービス「ハグキチェッカー」を始めた。口を「イーッ」と横に開いてスマートフオンで撮影すれば、人工知能(AI)が歯1本ごとの歯ぐきの状態をチェックする。サービスの利用で歯ぐきの健康に関心を持ってもらい、関連商品の販売につなげる。
ライオンのほか、AIを使った画像解析のAutomagi(東京・新宿)、アプリ開発のエムテイーアイの計3社が技術を持ち寄り、サービスを運営する。
具体的には、イーッと開いた口の写真を基にAIが永久歯を識別。その上で写真に写った1本ごとに「歯ぐきの下がり」「歯ぐきのくすみ」「歯ぐきのハリ」 の3つの状態をそれぞれ3段階で評価する。口の中の健康に関する情報や、歯ブラシなどのオーラルケア製品も併せて紹介する。
歯の喪失は全身の健康状態の悪化につながるという。ライオンが持つデータや知見を生かし、手軽に歯ぐきの状態をチェックができるサービスに仕立てた。AIによる画像認識や解析精度の向上により、今後もサービスの質を高めていく。
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4.市販薬あるのに病院処方5000億円 医療費膨張の一因
7月11日 日本経済新聞 |
医療費抑制につながる市販薬の利用が広がらない。湿布や鼻炎薬など市販薬があるのに、利用者が病院に通って処方される医薬品の総額が5千億円を超すことが日本経済新聞の調べでわかった。処方薬は自己負担が原則3割と安いからだが、残りは税金や保険料で賄う。一律に保険を使う制度を改め、代えがきかない新薬に財源を振り向ける必要がある。
○病院での自己負担、市販の4分の1
2016年度の医療費は4兆円で、うち薬の費用は10兆円。公定価格(薬価)が3349万円の白血病治療薬「キムリア」が5月に保険適用となり、今後も高価な薬が相次ぐ見通し。症状が軽い人がすすんで市販薬を利用すれば、その分保険を使う費用を抑えられる。もともとは医師の処方が必要だったが副作用の心配が少ないとして一般用で認めた市販薬を「スイッチOTC」と呼ぶ。これ以外にうがい薬や保湿剤など古くから市販薬と処方薬の両方があったものもある。
処方薬に頼る人が多いのは自己負担が軽いからだ。ある湿布薬を通販サイトで買うと598円(6月中旬)だが、病院で同量をもらうと3割負担は105円。アトピー性皮層炎に使う薬を肌荒れを防ぐ保湿剤として使う人もいる。その薬は市販の4分の1以下の負担で手に入るため不必要な受診が相次いだ。
○トップは湿布薬
日経新聞は厚生労働省が14年度から公表している診療報酬明細書(レセプト)データを活用。市販薬と同じ成分を含む医療用医薬品の処方額を調べたところ、最新の16年度は5469億円だった。金額が最大だったのは主に湿布薬に使われる成分の702億円。2位はアトピー性皮膚炎や肌荒れに使う保湿剤成分の591億円だった。鼻炎薬も上位だ。
集計方法を比較できる15年度からは5%減ったが、これは診療報酬改定で薬価が下がったことが一因。同じ薬価で比べると16年度は2%増えた計算となる。病院の処方量が増えたとみられ、市販薬への切り替えが進まない実態が浮かんできた。米医薬品調査会社IQVIAによると、がん免疫薬「オプジーボ」の18年度の国内売上高(薬価ベース)は1014億円だった。仮に代替可能な処方薬を市販薬にすべて転換すれば、オプジーボ級の高額薬を5種類分力バーできることになる。
○鈍い承認ペース
市販薬の承認ペースも鈍い。日本OTC医薬品協会(東京・千代田)は海外を参考に120種類の成分を市販できるよう国に求めているが、現在は86種。17年の市販薬出荷額は約6500億円だった。普及を促すため、市販薬の購入費の一部を控除する税優遇が17年に始まったが、18年の利用者は2万6千人と当初見込みの100分の1にとどまる。
市販の可否を決める国の検討会メンバーは医師が過半を占める。調査会社の富士経済(東京・中央)で医療に詳しい小倉敏雄主任は「市販品が増えれば病院にくる人が減り、病院経営に響きかねない。あまり広めたくないのが医者の本音」と指摘する。病院に来てもらえば、検査や処置、処方などで幅広く診療報酬を得られるからだ。製薬会社などの国への市販化要望は18年度に3件と、16年度の18件から急減した。
○保険の一律適用は限界に
法政大の小黒一正教授は「すべての医薬品を一律で保険適用する仕組みを維持するのは難しい。使われ方に応じて自己負担を見直すべきだ」と訴える。
参考になるのはフランスだ。薬の重要性に応じて自己負担比率をゼロから100%まで5段階に分けている。抗がん剤など代えのきかない薬は全額を公費で賄い、市販品がある薬の自己負担を重くしている。国や自治体が必要性の薄い通院を繰り返す人に対して自制を促すような取り組みも求められる。このままでは医療費の膨張にブレーキがかからない。深刻な病状の患者に医療費を手厚く振り向けるため、財源の配分を見直す時期にきている。
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