1.調剤報酬下げ、薬価は効果を重視 財務省が改革案
10月24日 日本経済新聞 電子版 |
財務省と厚生労働省は2018年度予算編成に反映する社会保障改革を巡る調整に入った。診療報酬改定では、薬剤師の調剤行為に支払う調剤報酬の大幅引き下げや、入院への診療報酬を厳しく算定するしくみに改めるのが柱。値段の割に治療効果の低い薬の価格下げについても18年度に制度化する方向。6年に1度の診療報酬と介護報酬の同時改定にあわせ、制度改革で社会保障の持続性を高める。
財務省が25日の財政制度等審議会(財制審)で改革案を示す。これをもとに厚労省と年末に向けて調整を進める。財務省は診療報酬と介護報酬のマイナス改定を求める。診療報酬は2%台半ば以上のマイナス改定をめざす。医療分野で、財務省は薬価制度改革や窓口負担見直しなど広範な項目で改革を求める。製造原価を積み上げて薬価を決めている薬には、費用対効果の考え方を薬価に反映させるよう義務付ける。対象となる薬は3割程度とみられる。費用対効果が低い薬は可能な限り価格を下げ、薬価引き下げにつなげる。調剤薬局で多額の無駄が出ていることにもメスを入れる。
薬剤費や薬剤師の技術料にあたる調剤医療費はこの10年で6割も増えた。調剤報酬は診療報酬の約2割を占めており、前回の16年の診療報酬改定の際はわずかにプラスだった。今回の改定では医療費増につながりやすい重複投薬の防止などの役割を果たしていない薬局を中心に、調剤報酬の大幅な引き下げを迫る。
病気になり始めた「急性期」の患者向けの診療報酬が手厚いため、急性期病床が全国的に過剰になっている。これを是正するため診療報酬の算定要件をより厳しくすることを提案し、医療費の抑制につなげる。厚労省もこうした改革には前向きだ。調剤報酬の引き下げや急性期病床の適正化について、18年度の診療報酬改定にあわせて実施する方針。一方で在宅での医療体制の整備には、診療報酬の手厚い加算を検討する。
財務省は高齢者の医療費窓口負担にも切り込む。75歳以上の負担は原則1割だが、数年かけて2割に引き上げるように求める。65歳未満の医療費は平均して年18万円程度だが、75歳以上は年93万円。ただ、高齢者や与党の反発を招く可能性があり、実現は見通せない。
介護では、通所介護(デイサービス)や訪問介護などを念頭に、中小企業の平均を上回る収益率があることから、報酬の適正化を迫る。自宅で掃除や料理を手掛る生活援助は一部で使いすぎとの指摘があることから、1日当たりの報酬の上限設定などを提案する。
生活保護の見直しでは、医療機関の受診回数の多さなどが問題になっている。生活保護費のうち医療扶助は約5割で、多くが65歳以上の高齢者向けの給付。財務省は適正な受診を促す指導を徹底し、それでも改善が見られない人には一定の負担を求める案を提示する。
後発医薬品の使用促進に向け、自己都合で先発医薬品を使う場合には後発品との差額分を自己負担にするなど実効性が高い対策を提案する。受給者の就労促進に向けた取り組みも加速する。就労能力があるのに正当な理由なく働かない人には、保護費の減額などの措置をとることを提示する。
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2.社会保険指導者研修会 開催される
10月17日 医療経済出版 歯科News & Topics |
平成29年度社会保険指導者研修会(日本歯科医師会主催)が10月16日、東京・一ツ橋の日本教育会館で開催された。小雨のぱらつく天気の中、全国の都道府県歯から多数の社会保険担当役員が参加し、演題を聴講し情報交換を行った。
冒頭のあいさつに立った厚生労働省の鈴木俊彦保険局長は、「28年度改定では、かかりつけ歯科医機能の評価の新設や術前術後の口腔機能管理に対する評価の充実、歯科訪問診療における諸連携に対する評価の新設等を行った。30年度改定においても、地域包括ケアシステムにおけるかかりつけ歯科医機能やチーム医療の推進、患者像の変化や多様化を踏まえた口腔機能管理、口腔疾患の重症化予防、生活の質に配慮した歯科医療の提供のあり方等について検討を行っている。中医協において具体的な議論を進めて参りたい」と述べた。
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3.抗がん剤残薬 活用へ調査 厚労省 医療費削減 期待も
10月12日 朝日新聞 |
抗がん剤を無駄なく利用するため厚生労働省は、使い切れずに残った抗がん剤を他の患者に安全に活用するための条件についての調査研究を近く始める。高額な抗がん剤が増える中、残薬の活用は医療費の削減につながると期待される。
例えば、免疫のしくみに働きかけるがん治療薬オプジーボは、1瓶100ミリグラム入りで約36万5千円。使用料は患者の体重や治療状況によって変わり、瓶単位では薬が余ることがある。効率よく薬を使い廃棄量を減らせば、年間数百億円の医療費を削減できるとの試算もある。残薬活用に関する安全基準は現在ない。メーカーは細菌汚染の恐れがあるとして残薬を使わないよう呼びかけている。一方、一つの瓶から複数の患者に使うことは禁止されていない。
厚労省は来月にも研究班を立ち上げ、残薬を安全に使用できる期間や作業環境といった条件を検討する。また、廃棄を減らすための小分け包装や、複数回の活用を前提とした薬の開発のあり方についても考える。一方で、医療機関が医療費を余分に請求していた実態も明らかになっている。
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4.クラリス多用と誤用のなぜ 谷口 恭 太融寺町谷口医院
10月8日 毎日新聞より一部抜粋 |
―抗菌薬の過剰使用を考える―
抗菌薬の乱用は現在、日本だけでなく世界的な課題となっていることは、これまでお伝えしてきた通りです。抗菌薬を処方するのは医師ですから、こういった問題は一般の人には関係のないことと思われるかもしれませんが、海外の薬局では誰でも簡単に抗菌薬を買えますし、個人輸入で気軽に購入している人も少なくありません。
―マクロライドの特徴とは―
マクロライドの代表的な商品名(先発品)は、クラリス、ジスロマック、エリスロシン、ルリッド、ジョサマイシンなどです。これらのうち、最も有名でよく使用され、さらに「誤用」が多いのがクラリスです。今回は、なぜクラリスがそんなにも誤った使い方をされるのか、そしてそれによりどのような問題が生じているのかについて解説していきます。
クラリスをはじめとするマクロライドの特徴のひとつは「抗炎症作用」があることです。つまり、単に細菌を退治するだけでなく、組織に生じた炎症を抑える働きがあるのです。この効果に期待してマクロライドが使用される例はたくさんありますが、最もよく使われるのが慢性副鼻腔炎に対する「マクロライド少量長期間投与」です。
一般に、抗菌薬使用法の原則は「短期間に十分な量を」ですが、この治療は抗菌作用ではなく抗炎症作用を狙ったものであり長期間の投与が必要となります。マクロライド少量長期間投与は、もともとは「びまん性汎細気管支炎」と呼ばれる難治性の呼吸器疾患に対する治療でした。その後、副鼻腔炎に対する有効性も認められ、現在頻繁に行われています。
マクロライド少量長期間投与は、提唱された1980年代にはエリスロシンで行われていましたが、副作用が少なく体内で長時間作用するクラリスに次第に代わっていきました。現在のマクロライド少量長期間投与はクラリスで行うのが一般的です。
―年々増える処方量―
さて、問題はここからです。これまでなかなかいい治療法がなかった慢性副鼻腔炎が、クラリス少量長期間投与で改善されるようになったのはいいことです。ですが、慢性副鼻腔炎というのは軽症例も含めればとても頻度の高い疾患です。すべての慢性副鼻腔炎にこの治療を行えば、ものすごい勢いで使用量が増えていきます。一方、びまん性汎細気管支炎は、まれで予後の悪い難治性疾患です。
私は慢性副鼻腔炎にクラリス少量長期間投与を行うべきではない、と言っているわけではありません。ですが、あまりにも簡単に処方されすぎていないか、または漫然と続けられていないか疑問に感じる症例にときどき遭遇するのは事実です。また、過去にピロリ菌の除菌は全例に実施すべきでないのでは?と述べましたが、除菌実施数は年々増加しています。そしてその1次除菌で使われる3種の薬剤にはクラリスが含まれています。つまり、クラリスは多くの場面で積極的に使用されており処方量は年々増加しているのです。処方例が増えた結果起こることは何でしょう……。
―クラリス多用で起こる問題―
さて、クラリスが多用されることで何が起こるか。最大の問題は「耐性菌」です。ピロリ菌1次除菌の失敗率が年々上がっているのはクラリス耐性株が増えているからであり、世界保健機関(WHO)が2017年2月に公表した「最も重要な薬剤耐性菌12種」の一つが「クラリスロマイシン耐性ピロリ菌」です。クラリスはマイコプラズマ肺炎の切り札の地位を長年維持していましたが、最近では半数以上がクラリス耐性と言われています。同じく切り札として用いられるクラミジア(クラミドフイラ)にもクラリス無効例が増えてきています。もちろん副作用も少なくありません。副鼻腔炎やピロリ菌の1次除菌で使われる限り、クラリスはこれからも大量に消費され続けます。ならば少しでも耐性菌のリスクを下げるために、社会全体で使用を最小限にしなければなりません。医師だけでなく一般の人にも今回述べたような知識を持っていてほしい、というのが私の願いです。
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